ガールミーツガール 〜愛と幸福の害について〜

2000年4月25日〜26日 フジタ・ヴァンテ

※ENBUゼミ 第2期生 KERAクラス公演


 去年と今年、二年に渡ってENBUゼミの講師ってやつをやってみて、普段ナイロン100℃でやっていると見えない、演劇というものの様々な側面をみることが出来た。そのことがまず、この二年間を無駄にした、いや、費やしたことによる代償、いや、収穫といえるのではないか。
 今日も、タイニイ・アリスやらパンプルムスやら明石スタジオやらアール・コリンやら、その他数十数百の小劇場では、二十代を中心にしたエンゲキニン達が公演を打っている。それらが、どう考えても「金を産んでない」ことは一目瞭然だ。だったら、何故彼らは芝居をやるのか。僕にはよくわかる。僕は今年で、芝居を始めて丁度15年になる。10年目を過ぎた頃からようやくそれは“仕事”として成立し、運が良ければそれで飯を食っていけないこともなくなってきた。“生徒”からお金をもらって“講師”という立場に立つことも増えてきた。今回のようにだ。
 生徒達は、お金を払って、今回の公演を打っている。僕は、お金をもらって、彼らの姿を、ひいてはかつての自分を見つめているような気がしてならなかった。

 そんなわけで二期生の諸君、いよいよ本番です。とは言っても、きっと、君らにとって重要なのは本番よりも稽古だったのだと思います。そう言えるのが君たちの強味です。もし芝居を続けてゆく気があるのだとすれば、すぐにそんなことは言えなくなる。結果がすべてになります。どうか、睡眠不足の中、きっと二度と味わえないだろうひとときを必死に楽しんでください。こんなに泣いたり落ち込んだりする役者の多い現場は滅多にないので僕にとっても新鮮でした。
 昨年の卒業生達の多くはすでに、甘っちょろいことは言ってられない蟻地獄に自ら進んで足を踏み入れています。これから君ら彼らがどうするのか知ったこっちゃありませんし、なにしろ来年から君らは僕にお金をくれないワケですから、僕はもう何も責任をもてません。何年かあとに、多額のギャラを僕からぶん取ってゆくような人が一人でも二人でも現れてくれたら、こんなに幸福なことはありません。芝居やめちゃう人はどうか幸せな結婚でもしてください。実は、ここだけの話、芝居なんてさっさと辞めてしまった方が絶対いいのです。それでも芝居をあきらめられなかった人達は、あきらめることをあきらめて芝居をつづけましょう。大丈夫、生きてりゃなんとかなります。

 観に来てくださったお客様、本日は有り難うございました。1000円分の、いや、1200円分位のステージには、僕らと彼らで仕上げたつもりですが、どうでしょう。御感想、御意見、御批判など、アンケートの方に一言でも御記入願えれば幸いです。彼らは一喜一憂してそれを読むことでしょう。
 本日は御来場、誠に有り難うございました。
 

ケラリーノ・サンドロヴィッチ


Special Thanks ミミナリさん