NYLON100℃ 2thSESSION「SLAPSTICKS」

1993年12月17日〜30日 新宿シアタートップス


SLAPSTICKS


8歳から17歳迄日記を書いていた。ごくたまに読み返しては大笑いしているのだが、中でも12歳から14歳にかけてがすごい。そこに書かれているのは片思いの悩みでも思春期の憂鬱でもなく、200数本に及ぶサイレント喜劇の感想である。

1973年12月に父に連れられて観たチャップリンの「モダン・タイムス」が僕の人生を変えた。映画の公開月などそう覚えているものではないが、翌74年は別だ。6月にキートンの「セブン・チャンス」が、7月に「街の灯」と「海底王キートン」が、8月に「キートンの蒸気船」が、10月にチャップリンの「独裁者」が公開された。キートンを知ってからは、いつも超満員のチャップリンよりも寂しい客席の“ハロー・キートン”シリーズに通いつめた。“もっとたくさんの人がキートンを観てくれたらいいのに”というようなことが日記に書いてある。ニュー東宝シネマ2の売店のオバチャンは毎日のように来る小太りの少年にラスクとコーラをごちそうしてくれた。ごちそうさまでした。毎日毎日ニコリともせずに客席でスクリーンを見つめていた。それどころか、ある日「蒸気船」を観ていたらふいに涙が溢れ出して止まらなくなった。チャップリンならわかるがキートンを観て泣くなんてどういうことなのかとあと人に言われたけれど、結構いるんじゃないだろうか、そういう人も。こづかいを使い果たし、親のサイフから金を盗んで殴られた。

10歳そこそこのガキがどうしてあんなにまであの世界に入れ込んだのかはまったくの謎だとしか言いようがない。タイミングとかそういった問題もあるだろう。魔が差したとゆーか。
14歳の時は、自主上映館や輸入フィルムを通して、50年前のコメディ映画を一本でも多く観ることに全エネルギーを注いだ。12プログラムを予定していたキートンのリバイバル連続上映会は客の不入りのためか、自然消滅のようにして我々ファンになんの断りもなく6本目で打ち切られてしまった。もっとひどいのはハロルド・ロイドで、これはなんと1本で打ち切り。多くの人達は皆チャップリンで満足していたようだったけれど、僕はもっともっと浴びるように当時の映画を観たかった。親が身を削るようにして貯めたなけなしの200万をおろして全部フィルムを買って再び殴られた。

今回のお芝居は、そんな頃の自分を思い出しながら、そしてまた、再びあれらのフィルムを見たりしながら書きました。ナイロン100℃2回目のセッションです。初めて一緒にやる方を少し紹介します。平山直樹さんとは数カ月前に初めてお会いしたのですが、マック・セネットのイメージにピッタリだったのでぜひとお願いしました。道方千晶さんは若いのに3○○(さんじゅうまる)や遊◎機械全自動シアターなど、有名劇団(笑)に次々と出演する女子大生。前回までスタッフをやってくれていた佐々木愼君は今回がまったくの初舞台だと知ったのは昨日のことです。あと、初めてではありませんが、大掘浩一君や新村量子さんとは久し振りに一緒にやるのでなんだかとても懐かしい気分で稽古が出来ました。

そんなこんなで、今回もたくさんの方々の協力で公演をうつことが出来ました。スタッフ、キャストの皆様、そしてお客様の皆様、本当にありがとうございます。
ひとつ来年もよろしくお願いしますです。


1993.12.18. ケラリーノ・サンドロヴィッチ


追伸1.24日、25日のソアレに空席が多数あると制作がわめいております。やはり“クリスマスの晩に芝居ってこともないだろう”との見解によるものと思われますが、今回のような芝居は“クリスマスの観ればまた格別”ってことはないでしょうか。どうぞ、お知り合いでクリスマスの過ごし方に悩んでいる方がおりましたらぜひ一声かけて下さい。もちろん、一度観たあなたがもう一度観て下さってもOKよ

追伸2.犬山さんや秋山さんやみのすけ君やあたくしが参加し、あたくしがプロデュースしたフレンチ・ポップス&ボサノバのコンピレーションアルバム「so nice !!」がBMGビクターから12月16日にリリースされました。今回の芝居のテーマ曲(“SLAPSTICKS#2”)も入っております。クリスマスプレゼントにぜひ

追伸3.御存知とは思いますが、今回の公演中、サイレントコメディの上映会を平日2時より行っております。全9プログラム、詳細は一緒に折り込まれている青いチラシを御覧下さい。「サイレントコメディ連続上映会」というヤツです。平日昼間というのがちょっとアレですけど、なかなか観られない珍品ぞろいですので、ぜひぜひ。

追伸4.最後になりましたが、今回の芝居を書くにあたって以下の文献を参考にさせて頂きました。特に私の高校の先輩でもある喜劇映画研究会の新野敏也氏には非常にお世話になりました。どうもありがとうございました。
  サイレント・コメディ全史 (喜劇映画研究会:編)
  ハリウッド・バビロン (ケネス・アンガー:著/リプロポート)
  バスター・キートン (トム・ダーディス:著/リプロポート)
  他


Special Thanks ミミナリさん