NYLON100℃ 4thSESSION「ネクスト・ミステリー」

1994年11月9日〜20日 池袋東京芸術劇場小ホール2


「NEXT MYSTERY」を観に来てくださった方へ

 1st.SESSIONの「予定外」以来15ヶ月振りのナンセンス路線です。「予定外」はそのあとの2本に比べると圧倒的に評判のよろしくない作品ですが、個人的には今でもとっても愛おしい芝居です。主人公の青年ユロが遠方に住む婚約者のもとへ辿り着くまでの冒険譚かと思いきや、ユロはいつまでたっても旅発つことをせず、どうでもよいのではないかと思われる雑事に没頭します。後半には3人の役者がユロをそれぞれのキャラクターで演じ、何の注釈もないまま三人三様の展開を始め、そのうちの一つでは(ラスト15分前であるにも拘らず)“それまでの物語はすべて劇中劇だった”ということが明らかになったりして、いよいよ出鱈目な状態に陥ります。目的であったハズの婚約者はいつの間にか忘れ去られ、忘れ去られたまま幕となりましたから、観客の皆さんはどうにも納得いかなかったようです。さらに、「予定外」の後半にはあまりギャグがありませんでした。言い訳をさせてもらえばこれには僕なりの思惑がありました。あーもうギャグ考えるの大変でめんどくせーなーと思ったと同時に、ギャグを用いずにナンセンスな舞台を作れないかと考えたのです。たとえ多くの笑いを誘発することがなくても、
ある独自の空気を作り出せればと思っていました。
 いくらナンセンスなギャグがたくさん詰まっていても、その裏にナンセンスでもなんでもないもの、つまり物語やメッセージやら、その他諸々が“ギャグは単なる道具でして、本当はこれがメインなのです”とでも言わんばかりの顔をしてデンと存在していたら、それは僕にとってナンセンスではありません。そんなものとの共存は不可能なのです。物語やメッセージらしきものをチラつかせていたとしても最終的にはすべてを無化する、あるいはすべての価値をひっくり返す姿勢でとりくむことが、僕にとってナンセンスの大前提です。(だから「SLAPSTICKS」も「1979」もナンセンス・コメディではないのです。この2本にとっての主役は物語でしたから。)少々廻りくどくなってしまいましたが、結果的に「予定外」の後半では、ギャグのない見通しの良い状態で自分なりの(自分好みの、と言ってもよいのですが)ナンセンス観を確認する作業が出来ました。「ギャグもないけど、他にも何もないよ」ということです。強いて申せば、あるのは“なんじゃそりゃ”です。
 そうした“僕なりのナンセンス”を骨組みに、ナンセンス・ギャグのみならず駄ジャレやら幼児ギャグやら役者のキャラクターやらで肉付けしたのが今回の作品だと言えるんじゃねえかと思います。

 しかし、無秩序も繰り返すうちにいつしか秩序と化します。次回作「ウチハソバヤジャナイ」の再演を以て、またしばらくナンセンスはお休みしようと思います。だから来てねというこれは宣伝です。今回のを観てさっぱりまったく全然面白くないと思われた方には「ウチソバ」も面白くないと推測されます。だから一本置いてその次の来てくださいというこれは親切心です。ちなみにその先のことはまるでヴィジョンがありません。
 そんなワケで本日はどうもありがとうございました。閉館時間の都合で休憩も入れられなくてすみません。今年のナイロンはこれにておしまい。
よいお年を。

1994.11.12.AM6:05
                ケラリーノ・サンドロヴィッチ




Special Thanks ミミナリさん