NYLON100℃ 8thSESSION「フリドニア〜フリドニア日記#1」

1996年7月24日〜8月4日 新宿シアタートップス


〜フリドニア御来場の皆様へ〜

  1.ナイロン100℃では今年、3月から9月迄の間に4本の公演を打ちます。全て新作、しかも異なったテイストの作品にしようという、制作は唸りっぱなしの試みです。その中で3作目にあたる本作「フリドニア」が“一風変わった作品”であろうことは、主に次のような理由から推測されるのでしょう。@みのすけと犬山犬子、11年間ずっと一緒に芝居を作ってきた役者二人が初めて欠番すること。Aキャパシティが前回のだだっ広いシアター・アプルから打って変わって小さなシアターTOPSであること。B純然たるコメディでも純然たるシリアス・ドラマでもないと謳われていること。Cなぁんとなく。異色作、実験作と言って逃げるのは簡単なことです。3本目あたりはとりあえずヘンなことをテキトーにラクして作って、胸張って「いやぁ、今回の場合実験作ですから、初めからこうしようと思ってたからねぇ」とか抜かして笑って済ますことが出来るのなら、僕は年間30本の芝居を打てます。某誌に載ったコメントが少々誤解を生んでいる節があるので明言させて頂けば、僕にも役者達にも、シンパやコアなファンの皆さんによりかかろうというつもりは微塵もありません。むしろそうなることを危惧しています。それは観てもらえばわかった頂けると思います。

今回の前売チケットも、おかげさまで即日完売でした。本当に有難いことです。が、これは芝居に限りませんが、大きくなるにつれてつまらなくなっていく輩のなんと多いことでしょう。どうしてなんでしょう。よくわかりません。わかりませんが、そこには才能の枯渇だの消耗だのという以前に、作り手と観客との間の“馴れ合い”の構造の問題があるような気がしてなりません。作り手自身が納得いかないモノを作ってもある程度の動員が見込めてしまう、というような。いえ、もちろん面白いつまらないは主観の問題ですから、明確な尺度ではありませんが、せめて自分だけは裏切らないように続けて行こうと思っている次第です。ああ俺ってマジメ。

2.今回の芝居はほぼ一年前に発想されました。昨年5月に「ウチハソバヤジャナイ」という作品で、初めて二瓶鮫一さんと一緒に芝居を演った直後のことです。ネタバラシになるので観劇前の方はここから先は読まずに3へ進んで下さい。
と書いたところで読む人もいるでしょうから、わからないように書きます。漁師役の二瓶さんが、ドがつく生き物を見て腰を抜かす、というイメージがふと頭をよぎったのです。結局紆余曲折の末、腰は抜かさなくなりましたけれど“二瓶さんと漁村”というイメージが「フリドニア」の初期衝動です。

ブラカマンを演じてくれた平山直樹さんは二瓶さんの次に出て頂こうと思った役者さんです。3年前の「SLAPSTICKS」のマック・セネット監督役はとても人間味のある演技が適役でした。東京壱組在籍時に二瓶さんとも幾度か共演したことがあるということも、また一緒にやれたらなぁ、と思った理由です。

松野アリミさんから突如電話があったのは、確か今年の4月です。「夏にスケジュールがあいたので、その頃芝居があったら出してください」とのことでした。唐突な奴です。僕はその瞬間、二瓶さん、平山さんと松野さんが一緒に舞台に立つことを想像して思わずニヤリとし、間髪入れずに今回の公演に誘っていました。つい先日ビデオ化された「1979」の彼女と比べてみてください。まぁ、元々と言やぁ元々ですが、どんどんアイドルっぽくなくなってきてて面白いです。(因みに彼女は今、Les−5−4−3−2−1というグループのボーカリストであります。)

以上が、久し振りに参加してくれた3人の役者さんです。なお、作品を書くに当たってガルシア・マルケスの一連の短篇、ギュスターブ・フロベールのいくつかの作品、別役実さんのエッセイ、フェリーニのいくつかの作品とニーノ・ロータの音楽、そしてエノケンや田谷力三さんの浅草オペラに大いに触発され、参考、感動、引用、マネなど、いろいろさせて頂きました。ここに謝意を述べさせて頂きます。

3.さて、今年の4本め、96年ラストスパートは、久々に純ナンセンス・コメディになる予定です。犬山、みのすけを含めたおなじみのメンバーに加え、工事現場2号、マギー(ジョビジョバ)、久松信美(自転車キンクリーツ)、林和義の4名様が初参加。肉屋の息子の信じられないような、ステキな成功物語です。「ウチハソバヤジャナイ」「ネクスト・ミステリー」といった作品とはまた違った新しい形で、いくところまでいったネオ・ナンセンスをお観せできればと思います。

最後に、いつものことですが、今回集まってくれた役者の皆さん、不眠不休で働いてくれたシリーウォークの方々、舞台監督の梅澤諭志さんをはじめとする素晴らしいスタッフの皆さん、そしてキュークツな中、今回も2時間半近い芝居を観て下さった観客の皆さんに、限りない感謝を捧げます。もう捧げまくります。ありがとうございました。

ケラリーノ・サンドロヴィッチ


Special Thanks ミミナリさん