NYLON100℃ SIDE SESSION SPECIAL
「偶然の悪夢」

1998年10月21日〜10月29日 青山円形劇場


 今年もいろいろなテイストの舞台をやらせてもらいました。これが98年最後の作・演出作品となります。
 まずはじめに、いちいちこんなこと言うのも妙だとは感じつつもやっぱしお断りしておいた方が良いかと思うのは、今回の舞台が”笑いを目的としていないという点でちょっといつもと違うよ”ってことです。もちろん笑いたくなったら笑ってくださって結構なんですけどね。ただ、Hanako10月14日号で紹介された今回の作品についてのコメント「淡々とした悪意もいいけど、やっぱり弾ける悪意も見たい。KERAとナイロンのオトボケたちが贈る悪夢にまつわるオムニバス。もう考えただけで噴き出しそう!」はまったく的はずれだと言わざるを得ません。だからもしHanakoを読んで我々のオトボケぶりを期待して来て下さった方がいたらご免なさい。今回はオトボケなしです。(ちなみに12月に大倉と峯村が演る公演はかなりトボケるんじゃないかと思いますよ、わかんないけど)こうした、とぼけないタイプの演劇もたまには面白いかとも思いますがまたやるかどうかはわかりません。「たまにやると面白そうだ」と思うことが多過ぎて、全部やってると新しいことをやる時間が無くなってしまうからです。

 さて、「偶然の悪夢」は、ドイツの作家、故ギュンター・アイヒが書いた放送劇「夢」を舞台化した短編6本のアンソロジーです。(この人の詳細は売りパンフを見てね)とは言ってもギュンターの作品は6本のうち半分(「列車」「治療」「敵」)で、残りの半分は勝手に僕が書き下ろさせて頂きました。また、「現代人の不安を具現化した」と絶賛された原作ですが、現代人といっても発表された当時、つまり50年代の人達を指すわけで、さすがに今読むと古臭かったり説教くさかったりしたものですから、21世紀目前ヴァージョンとしてかなり脚色させて頂きました。特に「治療」の後半はまったく原作にない展開でして、もしギュンターさんがなにかの拍子で生き返って観に来てくれたら、「これはちょっとあれだねぇ、どうかと思うねぇ」と言うかもしれません、もちろんドイツ語で。

 というわけで、今回はいろんな人がみた「夢」のお話なのですが、夢のお話だけに、「何故?」と聞かれても困ってしまうような物語ばかりです。「夢だからじゃない?」としか言いようがない。もっとも”何故?”と考えること自体ナンセンスなものは夢に限らずたくさんあって、例えば文字の世界でも、いわゆる無意識界の物語達、口承文学の世界をのぞいてみれば、各民族に伝わる神話、伝説は言うに及ばず、ムタラクタラなものばかりです。新・旧約聖書の数々の神話、オルフェウス伝承、ガルガンチュアで代表されるブルターニュ伝説群、ニューベルンゲンの指環などジークフリート説話、ドラキュラ伯爵のトランシルヴァニア伝説、古事記、ロシア伝説、アラビアン・ナイト、今昔物語、トリスタンとイズ一伝説、聊斉志異、能楽に至るまで、そろって残忍、唐突、未知、異様、錯綜していて、僕はそこに自由な魅力を感じずにはいられないのでした。どうかリラックスして、あまり理屈っぽく考えずに御覧頂けると嬉しいです。

 最後にスタッフさん、役者さん、たくさん感謝してます。毎回いろいろなタイプの人々といろいろなタイプのステージわ作れるのは本当に幸せです。
 ではごゆっくり御覧下さいね。
 
 

ケラリーノ・サンドロヴィッチ

【参考・引用】 大江健三郎「死者の祈り」
         ポール・オースター「孤独の発明」
         フランツ・カフカ「カフカ寓話集」