昔、佐藤がいた。

1999年2月17日〜18日 フジタ・ヴァンテ

※これは、演劇ぶっくのケラさんが講師をしていたゼミのクラスの卒業公演であって、ナイロンってわけじゃないです。でも、作・演出はケラリーノ・サンドロヴィッチ


 回は、『入場料800円であるにも拘わらず8クラス中唯一の豪華書き下ろし新作』、ということになってますけど、実は、ベースとなっているストーリーは、以前やった『SUNDAY AFTERNOON』というお芝居やら(そしてこのお芝居はさらに”君がそこにいるように”という小説を原作としています)、以前書いて同人誌に発表した小説やらのリミックスのようなものです。僕の芝居ではよく人が死にます。たとえ死ななくても、死にまつわる事物が重要なモチーフになることが多いです。今回の物語も一人の男の死をめぐるもので、でもまあ、気軽に見て頂ければと思います。

 さて、これまで一週間程度の短期ワークショップをまかされたことは幾度かありましたけど、一年近くもの間同じ顔ぶれの生徒達とつきあうのは今回が初めての体験でした。
 一応、この公演がこの一年間の総決算ということになります。いろいろなことがありました。どこかへ行っちゃった人もいます。僕の方がどこかへ行っちゃったこともありました。あまりの声の小ささに度肝を抜かれ、右手と右足を同時に出さないと歩けぬ者に頭を抱えました。一度だけ、ほぼ全員で新宿の歌舞伎町へ飲みに行ったのですが、飲み放題1800円のその店は汚いやらやかましいやらまずいやらで、ロクに話も出来ず、今でもつらい思い出です。
 ですから、僕は彼らのことをまだよく知りません。全員の名前を覚えたのはつい最近だし、今でもたまに間違えます。僕と彼らのつながりは、しかし、作品においてはとても濃密だと信じています。稽古だけのつきあい。とても健全です。たいていこうした学校の講師は女子生徒の一人や二人に手を出すのはあたりまえでしょうけど、僕はそれすらしていません。
 いやあ、したね、稽古。とても800円の公演分の稽古ではなかった。授業時間は一応年間120時間の予定でしたけど、なんだかんだで200時間以上は教室にいたんじゃないでしょうか。まあ、始めからきっとそうなるんだろうと思ってたんだけどね。ともあれ、これでなんとか、お客さんにも「800円の公演ですらなかった」とは言われずに済むんじゃないかと先生思うけど。どうでしょうお客さん。

 これから先彼ら29名がどうなっていくのか、僕には知ったこっちゃありません。でも、昨年4月からの数ヶ月間で、みるみるうちに役者然としていった何人かには本当に胸ときめかされましたし、何度言ってもわからず、とうとう本番になってもわかりそうもなく、おそらく一生わからないだろうという何人かに対しても、それはそれで君達にはいいところがたくさんあるさ、だから頑張っておくれよとつぶやいてしまう僕が、赤面しながらここにいます。
 ああ、一年の月日ってやつは!

 最後に、ここに書き切れない多くの方々の御協力に心より感謝します。
 本日は御来場ありがとうございました。ごゆっくり御覧ください。

1999.2.13 ケラリーノ・サンドロヴィッチ