シリーウォーク・プレゼンツ「病気」

1997年10月17日〜26日 青山円形劇場


「病気」上演に際して


 毎回、公演の度にたくさんの方々に深く感謝することになります。

 一時期、あれはもう10年近くも前のことと記憶しますが、WAHAHA本舗の村松利史さんや、当時ラジカル・カジベリビンバ・システム、現・遊園地再生事業団の宮沢章夫さんや、亡くなった放送作家の加藤芳一さんとよく“別役実という人が書く戯曲の面白さについて”語り合うことがありました。村松さんとは「それじゃあ今度一緒に別役さんの家に行って、新作を書き下ろしてもらえないかお願いしてみようか」なんて話になったこともあります。面識もなにもないのにです。知りもしないのに平然と「今度家に行って」とは。まったくもって失礼千万な私でした。あたかも知り合いであるかのように「別役さん」などと“さん付け”でよんでいたのもなんというか、いまいましいじゃありませんか。で、当然ですが、別役さん家へは行きませんでした。別役さんの家がどこにあるのか知らなかったということもありますけど、やはり“俺ごときがそんなお願いしにいったところで‥‥”みたいな思いが踏み留まらせていたんだと思います。
 それからは、具体的に別役さんの本を演出したいと考えることはありませんでした。別役さんの戯曲を読み、公演を観る度に、「もし自分がやらせてもらえたら、もっと自分なりの演り方で演出できるかもしれない」などという思いが頭をよぎることはあったものの、です。ですから、もし今回のフェスティバルに参加していなかったら、ズルズルと“交わることないまま”生きていったのではないかと思います。演出家として、別役さんと。だから、フェスティバルプロデューサーの、円形劇場の能祖さん、誘ってくれてどうもありがとうございました。去年はナイロン100℃でのフェスティバル参加だったけれど、今回のような、なかなか他所では出来ないような企画の方が面白いと思います。ぜひまた誘ってください。アイディアはいくらでもあります。

 小林克也さんと松尾貴史さんには今年の初めに僕が書いたNHKのラジオドラマに出演して頂きました。その時今江冬子も大倉孝二も二瓶さんも一緒でしたから、考えてみるとなぁんか、あれは今回の芝居の“前菜のようなもの”だったような気もします。もしあのラジオドラマがなかったら、「舞台はスケジュールが大変だから演ったことないんだよ」と語っていた克也さんをわざわざ初舞台に引っ張りだすようなことを思いつきはしなかったでしょうから、一応あのラジオドラマのディレクターだった松浦さん、どうもありがとうございました。あんまり気が合わなかったけど、というか最後の方はほとんど二人共ケンカ腰だったけど、今こうして「病気」の初日を前にしてみると、缶詰めになっていた渋谷アリマックスホテルの一室での罵り合いも無駄ではなかったのだと思えますから人生って面白不思議です。あのラジオドラマはもっと面白くなったハズだとも思うんですけど。
小林さん、松尾さん、今江さん、大倉くん、河田さん、広川さん、宮本くん、似田原さん、今津くん出演ありがとうございました。そして「スパイものがたり」本番直後の忙しい時期の突然の出演依頼を快諾してくださった二瓶さん、ありがとうございました。松尾さんのマネージャーの千葉さん、稽古場ではいつも制作助手みたいなことやらせてしまってすいません。感謝しております。

 全てのスタッフの皆様。何度ありがとうを言っても足りません。超ありがとう。ホンットわがままばっかり言って申し訳ない。無理をさせてる人間が言っても説得力ありませんが、体だけは大事にしてください。ホントもう大変なんスから。

 そして観客の皆様、本日はご来場ありがとうございました。70分という、いつも僕が作ってる芝居の半分近くの上演時間の短いお芝居ですが、360度全方位、微妙で奇妙な面白さが満載の舞台です。ボォッとしてると“なんだこりゃ”で終わってしまいます。まあ、それもまたいいかもしれないですけど。ちょっと疲れるでしょうが、集中して、でもリラックスして、ニヤニヤ笑いでご覧頂ければ幸いです。

 最後に別役さん、上演を許可してくださって本当にありがとうございました。僕は別役さんとカフカとE・チェツオーラとG・マルケスの作品を上演するのが夢でした。またそう遠くないうちに、(書き下ろしとは言いませんから)なにかまた一本演出させて頂けないでしょうか。バカルディーとかが演じるのもまた一味違って面白いと思うのですが。


1997.10.17. ケラリーノ・サンドロヴィッチ


宣伝1:また売りパンフレットを作りました。ロビーで売ってます。超特価800円です。別役さんと僕の大変ためになる対談や、役者から役者へのインタビュー、松岡和子さんと小森収さんの寄稿文など、フェスティバルパンフレットに負けない充実した内容です。表紙は、珍しくシブいデザインで、イージーリスニング系のアルバムジャケットのようなタテと横が同じ長さの、ですからつまり、正方形のパンフレットです。ぜひお買い求め下さい。

宣伝2:12月公演のナイロン100℃公演「フランケンシュタイン〜VERSION100℃〜」の前売りはチケットぴあ、セゾンにてチケット絶賛発売中です。「病気」とは(あたりまえですが)また一味も二味も違った、くっだらなくてメチャクチャハデなホラーです。大倉孝二がモンスターをやります。ウチのチケットは発売即日完売という噂がありますが、あれは嘘です。公演前半は特にお席に余裕がございます。さあ、今すぐチケットを買いに行こう。


Special Thanks ミミナリさん