NYLON100℃ SIDESESSION#4
「インスタント・ポルノグラフィー」

1997年6月13日〜15日 フジタヴァンテ
1997年6月21日〜22日 北沢タウンホール


「インスタント・ポルノグラフィーについて」

 とりあえず、やってみっか。
 サイド・セッションの志を一言で言うと、こんな感じになると思います。
 メイン・セッションと気取った呼ばれ方をする通常の公演とはまた別の”通常でない公演”、人間に置き換えるならば”平常でない人間”ということになり、今風に言うと酒鬼薔薇聖斗とかあのへんにあたるのでしょうか。”より実験的な試みの場”として回を重ねてきたサイド・セッションも今回の「インスタント・ポルノグラフィー」で4作目を数えることになります。だからと言って酒鬼薔薇さんがやったことが実験的な試みだと言っているわけではありません。

 試みであるからには試しなわけで、それはつまり言ってみれば”とりあえず、やってみっか”です。そんなものを3000円も4000円もとって観せてしまっていいか悪いかの議論は国会にまかせて私達は今日もとりあえずやってみるでしょう。だって私はいいと思うからやっているわけで、そうである以上、もう、あとは精一杯”とりあえず、やってみる”だけだからです。
 

今回はまず、いつもよりいやらしい舞台にしたかったということがひとつありますね、ええ。それも、ある奥ゆかしさを伴ったいやらしさです。
 ミニスカートの女子高生が平気で大股開きでいるような舞台ではなく、ロングスカートの若い人妻のパンツの中が実は大変なことになっているのですがそれは本人以外誰にもわからない私にもわからない、そんな舞台です、と思いつきで書いたら自分の底の浅さを露呈してしまったので今困っています。そこでひとつお断りしておくと、別に人妻が好きなわけではありません。
 「カラフルメリィでオハヨ’97」と平行で行われた今回の稽古では、役者の皆さんと数々のミーティングを重ねました。「舞台上でのどんなセックス表現に、観客として嫌悪感を覚えるか」という質問を皆にしたことがあります。いろいろな人がいました。”「チンコマンコ」といった言葉が飛びかうだけで席を立ちたくなる”という者もあれば、”ステージの上で本番行為が行われても全然平気、むしろ得した気分”という強者もいました。”格好のいい男の全裸ならぜひ見たいがブ男はいやだ”というもっともな意見もあったし、”そういうことではなく、えーと、もうやめませんか”と何を考えてか真赤になっている人もありました。結局、いろいろな人がいるということだけがわかりました。ですから今回のステージが皆さんに与える印象も千差万別だと思います。そして、それもまたいいかと思っています。

 それから、笑って観ていいんだかシリアスに観ていいんだか困ってしまうようなモノにもしたかった。深夜テレビを観ていてチャンネルを変えると、なんだかよくわからない映画をやっていることがあるじゃないですか。誰が撮ったのかも、誰が出てるのかも、いつ、どこの国で作られたのかもわからない。ウチは新聞もとってないしテレビ雑誌もないから、今やってるこの映画のタイトルもわからない。情報がまるでない。ヒントすらない。途中からだからストーリーもよくわかせない。コメディなのかシリアスなのかもわからない。すべては自分の見方次第。そんな芝居をやってみる機会わ待っていました。で、だったらジャンルもテイストも書かれた時代も異なる複数の文学作品を、本来なら相入れるハズのない世界を強引にゴチャ混ぜにしてみよう、と思いつめたのはつい最近、稽古が始まってからのことです。
 最初はオムニバス形式にしようかとも思ったのですが、どうもスッキリし過ぎてしまいそうなので辞めました。シンプルなものよりも混沌としたモノに、私は魅かれます。

 そんなわけで出来たのが今回のコレです。
 「ラブ&ポップ」「鍵」「早春スケッチブック」の三作品の他、今回参加してくれた役者さんから随分たくさんのアイデアやセリフを提供してもらいました。
 悪条件にも拘わらずに出演を快諾してくれた明星真由美さんはもちろん、急遽出演をお願いした河田義市さん、小山彰一さん、本多一生さん、戸波咲恵さん、小野田靖子さんに心より感謝します。それから、どうにも呆れた状況の中文句も言わず死力を尽くしてくださったスタッフの皆さん。そして観客の皆様にも。
 サイドセッションではこれからも、極端なモノ、奇妙なモノ、ひと言ではとても言い表せないモノ、なんだかモワーンとしたモノ、触れようとすると消えてしまいそうなモノ、ちょっとどうかと思うモノ、じわっと湿ったモノなど、”通常とは一味違った舞台”や、若手公演、一人芝居など、様々な”とりあえず、やってみっか”をお贈りする予定です。我々にはそのような場が必要だと考えるからです。ああそれは私にも必要だ、と思われる方はご期待ください。
 それではごきげんよう、さようなら。

ケラリーノ・サンドロヴィッチ
1997.6.10 AM11:25